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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)154号 判決 1968年8月29日

上告人

柳原ハル

ほか二名

右三名代理人

安田重雄

被上告人

西村不動産株式会社

右代表者

西村一郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人安田重雄の上告理由について。

抵当権者がその抵当権の実行として競売の申立をし、その手続の進行中に、基本たる債権および抵当権を他に譲渡した場合であつても、右債権および抵当権は消滅したものではないから、当該事件において既に競落許可決定が確定してその代金が支払われ、競落人のための所有権取得登記が経由されたときは、右債権および抵当権の譲渡は競落人の競落物件の所有権取得に影響がないものと解するのを相当とし、これと同旨に出た原審の判断は正当である。論旨は、独自の見解に立つて原判決の判断を非難するものにすぎず、採用するに足りない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 長部謹吾 松田二郎)

上告代理人安田重雄の上告理由

一、原判決は理由齟齬の違法あり破棄せらるべきものとする。

(一) 本件被上告人(原告)の本件不動産取得原因としての主張するところは債権者東部塗料工業協同組合の申立により債務者ミタテ塗料工業株式会社、所有者南達庄助に対する東京地方裁判所八王子支部昭和三六年(ケ)第一六四号不動産競売事件につき昭和三七年三月三十日付で競落人を被上告人とする競落許可決定がなされ、次で同年五月二四日同人の為めの所有権取得登記が経由されたのであり、右競落許可決定により右不動産の所有権を取得したとなすものであり、之に対し上告人の主張は、債権者東部塗料工業協同組合は昭和三七年三月五日付で被上告人(原告)に対して前記競売事件の申立原因である債権及根抵当権を譲渡し其の旨同月二六日付で登記をしているのであり、其の後同月三十日競落許可決定があつたとは云えども其の所有権取得はあり得ないと云うのである。

(二) 以上当事者の主張に対し原判決は前記の如く競落許可決定のあつた以上は仮りに被担保債権及び根抵当権が他に譲渡されたとしても、競売手続は競売申立の取下を為さない限り、続行さるべきものであり許可決定による競落物件の所有権取得には影響ないものである旨の判断している。

(三) 然れども競売は権利実行の方法であるを以て、実体上存在せざる抵当権によりて競売を申立て不動産が競落人の所有となるも競売は実質上無効にして所有権移転の効力を生ずるものではない(大正一〇年(オ)七六五号事件、民集第一巻一〇号252頁)

而して、競売の申立後抵当権が実質上存在しなくなつた場合、即本件に於ける右根抵権及債権が譲渡により他(被上告人)に移転して申立人側には実体上存在しないものであるから前記競売は実体上存在せざる抵当権によりてなされたものとして、実質上無効であると謂うべく、従つて被上告人(原告)は本件不動産の所有権を取得していないと謂うべきである。(昭和七年一二月二〇日大民判決民集一一巻二一号二二三六頁)

叙上の理由により原判決は其の理由齟齬の違法あり、破棄せられるべきものと思料する。

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